牡鹿半島鮎川浜の潮風商店。家族で力をあわせ、美味しい三陸わかめを作っています。

　2011年3月11日の午後、その日もいつも通り自宅脇にある作業場でわかめの加工作業をしていました。
浜の一日は早朝から始まり駆け足で過ぎていきます。
いつも通りの一日が終わりに向かう午後3時前、その瞬間が訪れました。

　今まで経験したことのない強烈で大きな揺れに「津波が来る！」という思いが頭をよぎりました。
ただ、港のすぐそばとはいえ、道路1本分高台にあるのでここは大丈夫だろう、そう思いつつも念のため家族皆で避難をしました。

　ところが、津波は予想をはるかに超えて自宅の1階まで浸水しました。
収穫したばかりのわかめも、その加工品も機械もほとんど流れてしまいました。

　せめてもの救いは、家族や働いていた人たちが全員無事だったこと。
海との間に倉庫や大きな建物が並んでいて、それらが津波のエネルギーを弱めてくれたのでしょう。幸いにも家の建物自体も持ちこたえてくれました。

　その後、しばらくの間、避難所でお世話になる日々が続きました。
「こうしてはいられない」
自宅の後片付けと掃除に精を出し、なんとか自宅での生活に戻りました。
とはいえ、電気や水道のない暮らしです。
その頃はまだ、養殖の再開など考える余裕はありませんでした。

　震災前の「潮風商店」は、長年わかめを養殖・加工し、販売してきました。
それ以外にも海産加工品を仕入れて、金華山の船着き場にあった観光みやげセンターの一角で販売していました。

　そのかたわら、わかめ養殖がオフになる4月から10月には金華山の浜辺で民宿を営んでいました。
家族経営の小さな宿でしたが、手に取るような近さに海を見ながら新鮮な海の幸を味わえることから、「常連さん」に愛されていました。
でも、もしも震災があと1ヶ月後だったら…。お泊りのお客さんがいらっしゃったかと思うと、ゾッとします。

　家の中がいくらか片付くと、今度は、仕事をどうにかしなければという焦りと先の見えない今後に対しとてつもない不安に駆られました。

　いくら思い悩んでもどうにもなりません、収穫したわかめも養殖棚も流されたとあっては売る物がありません。
辛うじて難を逃れた加工済みのわかめが少々ありましたが、電気が来ないために袋に封をする機械が使えず、まさに宝の持ち腐れ状態でした。

　何かしたくても手も足も出ない日々。
そんな私たちを励ましてくれたのが、常連さんたちでした。
「何がほしい？畳？分かった、今から持って行くからね」
「危ないからいいよ、道路もまだ危ないんだから無理して来ないで…気持ちだけで十分だから」
そう遠慮したのに、結局は来てくれました。
畳、冷蔵庫、炊飯器、テレビをトラックに積みこんで。

　心配した全国各地の常連さんから食料や衣料品、日用品、燃料が、続々と届きました。
宅配便だけでも100個以上。
たくさんいただいて…それはもうご近所にもおすそ分けするほど。

　そうこうしているうちに、ようやく電力が供給されるようになり、なんとか最低限のかたちで事業再開することができました。
4月の終わり頃。震災から1ヶ月半が経っていました。
電気が来たのはいいんだけれど、初めのうちは電力量が少なくて。
機械を動かしながら電灯をつけるとブレーカーが落ちるので、暗い中で作業をしていました。

　そして今、震災から3年が経ち、しっかりと再開することが出来ました。
いろんな方が数えきれないほど支援してくださって、それが今でもつながっています。

そうした数えきれない支援のおかげで養殖が再開できたのです。

　常連さんに「わかめができたよ」と知らせると、
「それじゃあ50個ちょうだい」
「100個送って」
と、注文をくださるんです。
本当にありがたくて涙が出ます。
　今こうして商売しているのは、儲けるためとかそんなんじゃなく、お礼です。
「ここまで、できるようになったよ」という姿をお見せするため。

　元気に頑張って働いている姿を、私たちなりに見せていかなければならないと思うんです。
いつまでも甘えているわけには、いかないじゃないですか。
支援してくれた方々に、安心していただきたいんです。
それが、私の感謝の証です。